wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

波多野澄雄・戸部良一・松元崇・庄司潤一郎・川島真『決定版日中戦争』

本日はルーティン姫路。このところ睡眠時間確保のため一本遅い電車に乗っているのだが、二日連続でJRは遅延、早い便に戻すべきか悩むところ。そのおかげというか大阪駅で待たされたので電車読書が少しは進む。来年最初の講義の都合もあって、国際関係に触れていることに惹かれ、右派系学者による表題書を衝動買いしてしまい読了https://www.shinchosha.co.jp/book/610788/。このうち松元以外(以下、敬称略)は「日中歴史共同研究」のメンバーで、その時の不満をぶつけたものらしく、内容については・・・。戦争の発端については、エスカレートしなかった可能性が強調される一方、政府・陸軍・海軍が異なった政治的アクターとして振る舞っていたことを淡々と叙述。海軍の謀略(少なくとも個人的指向は明白)とされる大山事件に注釈をつけないという個別の問題以上に全体の評価に踏み込まないのはいかがなものか。また国際的な宣伝戦に敗れた理由として、「アメリカの世論を支配しているのは、ヨーロッパや日本と異なり、知識階級ではなく大衆であり、その点をりかいできなかったことが日本の宣伝がアメリカにおいて成功しなかった原因である」という当時の担当者の見解が無批判に紹介されているが、世論を煽りまくって引けなくなった日本の実情を鑑みるなら(別の章ではそれを示唆する叙述がある)、よくそんなことがいえるかと呆れるばかり。経済財政面からの分析はわかりやすく、全体としてもおおむね学問的な最低限の節度は踏まえられているとは思うが、全体史を個別にぶつ切りにして当時の日本側の願望を言い訳の材料にしているように感じられ、それを総括する叙述がないのは決定版と題する一般書としてはやはり疑問。