wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

コンラッド・タットマン『日本人はどのように自然と関わってきたのか』

電車読書ではないのだが、重要性に鑑み簡単に紹介http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1569-6.html。著者はアメリカの学者だが、1989年原著・98年日本語訳『日本人はどのように森をつくってきたのか』は、生態学系研究者を中心に日本森林史のスタンダードとして理解され、つい先日も考古学からのこのテーマの権威も近世史に関して同書に依拠しているのをみかけた。それに対して表題書は森林だけでなく環境史全体の通史で原著は2014年刊行とのこと。本論は第1章日本の地理、第2章狩猟採集社会ー紀元前500年頃まで、第3章粗放農耕社会前期ー紀元600年まで、第4章粗放農耕社会後期ー600~1250年、第5章集約農耕社会前期ー1250~1650年、第6章集約農耕社会後期ー1650~1890年、第7章帝国主義下の産業社会ー1890~1945年、第8章資本家中心の産業社会ー1945年~現代、からなり、第4章から第7章までは簡単に政治史を概説した後に人口・農業・林業・鉱山などの特質と生態系に与えた影響が論じられている。注目すべきは前著が近世社会の成立=大量伐採の開始と捉えていたのに対し(必然的に古代都城以後は破壊的なな森林伐採は発生していないという理解になる)、本書はそれを早めるとともに村との関係にも取り上げているなど、時代区分の組み直しがされており、概ね妥当なように感じられる。注をみる限り、中世までは日本人歴史家の研究は全く引用されていないようだが、全世界的にはこれが標準になっていることは認識しておくべきだろう。