wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

広中一成『後期日中戦争』

昨日は徳島で研究会、本日は姫路で古代史研究会の裏方。そういうわけで衝動買いしてしまっていた表題書を読了。最初に研究史に触れて後期日中戦争への関心が低いと指摘。ただ余りにも古すぎる印象を受けながら読み進めると、91頁に文献として、『日中戦争全史』が取り上げられるも、巻末に相当する書籍がなし(書店のHPにも特に訂正なし)。思い浮かぶのは笠原十九司氏の上下巻だが、それに先行する『日本軍の治安戦』も含めて全く無視。アジア・太平洋戦争の代表的論者である吉田裕氏の通史でも中国戦線はそれなりに扱われており、いかがなものか。また日本軍の使用した毒ガスについて、わざわざ政府答弁を引用してその致死性について深入りを避けているが(127頁)、歴史研究者の態度としてはやはり疑問。本書のテーマは触れられていない三光作戦・敗戦後の撫順を含め政治に持ち込まれやすく、それを避けたいという気持ちはわからないではない。ただそれなら最初に紹介している従軍経験者のインタビューをもとに構成して、大上段な議論ははなから避けるべきではなかったのか。

後期日中戦争 太平洋戦争下の中国戦線 広中 一成:一般書 | KADOKAWA 千里山は21日から対面再開とのこと。枚方もやや遅れてそうなるようで、ひきこもり生活も大きく変わる見通し。

樋口健太郎『摂関家の中世』

本日は自治体史の対面会議(一人のみZOOM)。本年度末に向けて課題は山積み。帰宅時点で半分近く残っていたのだが、明日の高速バス乗りの荷物を軽くするためもあって表題書を読了。成立から豊臣摂関家の滅亡と近世までを、摂関という職掌に焦点を当てて論じたもの。外戚天皇の後見→院の指示を受けての内裏内の天皇の後見・補佐→12世紀末からの武家との媒介→道家失脚後の即位灌頂のような天皇作法の創出→足利将軍への公事師範→流転する将軍との一体化による武家化→武家関白としての豊臣氏江戸幕府の意向を受けて禁中の取り仕切り、という変遷が示されていて「政務」という用語にやや疑問は残るが趣旨は明確。また院政期の政治を摂関の動向から説明するのを著者ならではの力業。もっともすっかり記憶力の落ちた身としては多数の人名について行くのはなかなか困難だったのも事実・・・。摂関家の中世 - 株式会社 吉川弘文館 安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社 (yoshikawa-k.co.jp)

佐藤信哉『戦争の中国古代史』

本日はゼミ関係の文献チェックで千里山へ。学生はチラホラ見かけたが、商経・法文は非常勤講師室以外は閑散としており(交通費請求書類の提出先)、実験系のみが登校らしい。そんなわけで電車読書も久しぶりの更新。Twitterをお見かけしていることもあり(歴研に専論もある「模範生」)、衝動買いしていたもの。戦争と銘打っているかが、内容は殷代から軍事に重点を置いた通史というべきもの。甲骨文字からみた武器の性格、金文の読み方などは興味深かったが、戦争の具体像についてはむしろ禁欲的で、動員兵力数にすら触れることがない。十八史略(中学生時代に陳舜臣本を読んだ記憶が)のような後代の史書ではなく、可能な限り一次史料を基に史実を再校正するという実証史学の方法に依ったためと思われる。ただどれぐらいの兵力をどの程度の日数動員できたものかは、知りたかったところ。

『戦争の中国古代史』(佐藤 信弥):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部

木下武男『労働組合とは何か』

本日は姫路勤務、帰路に久しぶりに大阪のチケット屋で95%図書カードを購入し新本屋へ。レジの行列は途切れていなかったが、棚はスカスカで今後が心配。電子書籍の広がりに加え(引きこもり中の授業準備で一度購入したが、スクショしかとれず余り当方は利用しようとは思わない)、紙本でも送料無料の通販があり(しかも図書カードも使用可で昨年何度か利用)、いつもなら新本屋で買うものも学会割引経由となった。そうした矛盾を抱えながら久しぶりの電車読書の備忘。同一労働・同一賃金、産業別組合の力で企業競争による労働条件切り下げを阻止する欧米型労働組合について、中世ギルドまで遡って成り立ちを解説し、それと真逆の企業内労働組合・年功賃金という日本の成り立ちと、それが故に90年代以降に労働条件の切り下げに対抗できず、最低賃金が非常に低水準に抑えられている状況を対比、そのなかで関西生コン労組が欧米型の産業別労働組合を実現し成果を上げる一方、弾圧にさらされている現状を紹介。確かに非常勤講師組合などに関わってしまうと、組織率の低さがもろに交渉能力の低さに直結しており、欧米型の必要性は痛感される。ただ欧米でも労働組合を否定するネット企業が出現しておりそれをどう打開しようとしているのかは気になるところ。なお関西生コン労組は2015年の運動で見かけたが、そこまでの意義をもっているとは知らず勉強になった。

https://www.iwanami.co.jp/book/b559580.html

『歴史科学』245

(2020年1月例会 鎌倉幕府と権門体制)と題して、佐藤雄基「鎌倉幕府の裁判と中世国家論ー裁判から『国家とは何か』を論じられるのかー」・木村英一「中世前期における京都の武士社会と鎌倉幕府」が掲載。当方も参加し(思えば最後の飲み会)、討論でも発言したため要旨に記録。ただ大会ではないので、報告者に当日の発表そのままを活字化する義務は当然ない。そのため論文と全くかみ合っていないように見えるが、誰の責任でもない点は確認しておきたい。むしろ当日の疑問に答えていただいたもの。

「室町期西播磨の交通と政治拠点」

『ひょうご歴史研究室紀要』6(2021年3月26日刊行)。現物も奥付通りに納品され、何人かの方には送付済。ただHPリニューアルの関係でPDF公開が遅れ、しかも当方のみ手違いがあったため、ようやく本日公開ひょうご歴史研究室紀要 | 兵庫県立歴史博物館:兵庫県教育委員会 (hyogo.lg.jp)。内容は矢野庄散用状に登場する地名を並べて、山陽道・美作道、揖保川千種川交通の実態と、守護・守護代などが設けた政治拠点との関係を論じたもの。実は一連の論考の中で基礎作業はもっとも早く、2015年度の歴史研究室客員研究員時代に実施。当時もっとも仕事がなく(非常勤6コマのみ)、なおかつ気力も衰えていた中で、かろうじて『相生市史』からひたすら地名を拾った次第。さらに2コマがなくなり、どうしようもなくなったタイミングで歴史研究推進員に任用。赤松やら刀剣やら目先の課題に取り組むこととなったが、昨年度は「播磨の道」特集となり、ようやく日の目を見た次第。結局この20年ぐらい締切原稿しか書けなくなってしまい、どうしようもない。二冊目のOKが出たのもちょうどその頃だが、結局踏み出せないまま。もと論文刊行後に引用されずに発表された研究をどう扱うか決めかねている。今年になってからまた三本ほど見かけてしまい、途方に暮れるばかり・・・。