wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

荒木田岳『村の日本近代史』

このところ年末年始は勤務先の紀要原稿の執筆。今年もようやく一月第二週の講義準備が終わり、専念できるようになった(ただし12月31日締切のリモート課題の採点が待ち構えている・・・)。ただその前に電車読書の読みさしを片付けておく。福島で格闘されていることを知っていたので衝動買いしていたもの。16世紀に世界史レベルで生じた「分割と囲い込み」に対応したものとして秀吉の村切りを捉えた上で、それが度量衡の不統一・耕地の入組・相給・簿外地など近世を通じて切り刻まれ不完全なものになっていたとし、秀吉構想の焼き直しとして明治の郡県化と郡を分割して行政村が成立したと評価。そもそも村は支配の客体であり自然村など存在せず共同体とは別の概念だと結論づける。著者が事例として取り上げるのは北陸・関東・東北で、あげられている村絵図も耕地のみで共同体的用益の濃厚な場である山野は描かれておらず、畿内近国の立場からすると著しく違和感のある主張。もっとも村落文書のあり方も含めて全国一律に同質の村落共同体が存在したかは別で、その点では一石を投じるものか・・・。ただ近世毛利を安芸の旧族居付とするなど、中近世の叙述には荒っぽさも目立つ。

筑摩書房 村の日本近代史 / 荒木田 岳 著

これで今年の更新は最後。皆様よいお年をお迎えください。