本日はルーティン姫路、相変わらずほぼ爆睡しているが、何となく購入していた表題書を読了https://www.iwanami.co.jp/book/b378376.html。人民闘争史における変革主体の追求としての一揆研究から、百姓成立という仁政イデオロギーを共通認識とした、非暴力的な請願としての一揆像への転換という研究史を整理。生々しい一次史料とされた文書がある種のテンプレで成り立っていたという史料論の展開を踏まえて、フィクションとされた一揆物語を、仁政イデオロギーに基づいて読み解き、その前提に著者が切り開いた『太平記評判理尽抄』の普及があったとし、読書の普及により領主層から民衆までの社会の共通認識=政治常識の形成に寄与し、社会批判の拠り所ともなり、民衆自らもあたかも軍書の登場人物になったかのように一揆に加わることができたとする。その一方で18世紀半ば以降に貧富の格差により百姓世界の分裂がおこり、あるべき像としての義民伝の普及、「御救」政策の担い手への富裕者の取り込みなどがあり、近代への胎動がはじまるとする。その上で太平記・一揆物語のような読書の普及にみあらわれる、変革主体にとどまらない「自己形成」の主体として対象をとらえ、近世の社会各層の諸主体の関係性を問うことこそ近世史研究の方向とし、歴史研究は自己形成・自己変革の学問であり、政治・社会の変革の学問だと締めくくられる。著者は1961年生まれで、人民闘争史に代表される戦後歴史学から社会史的な方向への転換を、学生・院生時代に経験した世代。その中で研究史を正当に評価しながら、新たにバージョンアップ(かつての用語でいうところのアウフベーヘン)させていく姿勢はまさに王道。80年代以後生まれによる著作の惨状を漏れ聞いて憂うばかりの身としては反省することしきり。