wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

内藤正典『限界の現代史』

引き続き電車読書の備忘。書店でいったんは見送ったのだが、別の機会にポイントにつられ講義用になるかと衝動買いしたものhttps://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0954-a/。9.11以降、とりわけ2015年からのアラブ難民危機という現状を、EU啓蒙主義がはらむイスラム対するダブル・スタンダード、中東における国民国家の矛盾、シリア内戦に全く対応できない国連と自壊するサウジアラビア、トルコがとる疑似オスマン帝国的なムスリム保護と、ロシア・中国などとの「敵対的共存関係」、そのような流動的な現代情勢に全く対応できないまま血統主義固執する日本の現状が紹介され、民族によらない国民国家の再定義の必要性と、「帝国」による「敵対的共存」状況として世界を展望したもの。そもそも国連が機能した時期があるのかという疑問もないではないのだが、この間に触れた現代国際社会の見通しとしてはもっとも説得力があるように感じた。今年度の講義は結局70年代半ばまでしかできない見通しだが、近代国民国家の矛盾と「日本本土」のはまり方については各回を通じて説明したつもり。来年は15世紀までを4回に圧縮して、現代史をしっかりやろうと改めて思わせてくれた。なお著者はTwitterで存じ上げていたが、もともと東大科学史専攻で、その後はシリアのカナート調査という地理学的手法からイスラム社会研究に進んだというのは初めて知った。今年から正月が存在しなくなったので、明日から引きこもってようやく論文書き。皆様方がよいお年を迎えられるよう祈念申し上げます。