wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

内藤正典『イスラームからヨーロッパをみる』

昨日は職場でシンポジウム(座席は半分のみ使用)。裏方とはいえ、打ち上げがないのはやはり寂しい・・・。そんな中で遅ればせながら電車読書の備忘。前著『ヨーロッパとイスラーム』が興味深かったので、衝動買いしていたもの。フランスに代表される「被り物」の禁止など、9.11以後に急速にヨーロッパで広がるイスラムフォビアと、女性抑圧などの「リベラル」・キリスト教主義という正統化の論理。移民の二世・三世が二級国民としてしか受け入れられず、イスラームに目覚め、一部は「イスラーム国」に引きつけられる事情。シリア戦争をめぐる欧米の対応と難民受け入れ問題。「世俗国家」でありながら、ヨーロッパ(EU)に受け入れられず、ムスリム弱者の側に立つという「イスラームポピュリズム」をすすめるトルコの動向など、近年のトピックがムスリムの論理から説明され、ヨーロッパ諸国の同化主義あるいは多文化主義といった政策の失敗と限界を述べたもの。論調は前著と同じだが趣旨は明快。思わぬところで秋の講義資料には使わせていただいた。ただクルド問題・シリアのアサド政権の処遇(以前に好意的な著書も紹介したが、非人道的抑圧は明確)に関する解決策はみえない。なお校了後のためアヤソフィア問題には触れられていない。

イスラームからヨーロッパをみる - 岩波書店