wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

伊豫谷登士翁『グローバリゼーション』

本日は自治体史の会議、あと一月で史料編の解説を仕上げなければならない。そういうわけでタイトルにつられ衝動買いしていた表題書をようやく読了。閉じた国民国家の形成と、帝国的な開放性をもつ植民地形成はパラレルだったというところに基点を見いだし、多国籍企業の展開による新国際分業の形成・消費文化の浸透により発展途上国に無尽蔵な労働力供給の状況が生まれたことで世界労働市場が成立し、富と貧困が集積したグローバル・シティのネットワークがによって再構成されたことで、すでに福祉国家体制に戻ることはできないという。その上で移動・難民という国民国家を所与とした方法的枠組みそのものを問い直すべきであるとし、日本については戦前の移民送り出し・帝国的流入国から、戦後は外部からの「単純労働力」の受け入れが不可欠だった欧米と異なり国内の余剰労働力の再編によって高度経済成長を成し遂げたことで断絶し、バブル期になって「外国人労働力問題」が発見されたとする。今後についてはシチズンシップの問い直し、グローバリゼーションとナショナルなコミュニティ願望(「絆」・ティーパーティーなど)の共振を断ち切って、既存の学問領域を超えた共同作業が必要だとする。日本人移民問題で80年代の「日系人」限定に触れられていないのには違和感があるが、世界資本主義の展開の中に問題を位置づけた視点は勉強になった。

筑摩書房 グローバリゼーション ─移動から現代を読みとく / 伊豫谷 登士翁 著