wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

大隅和雄『中世の声と文字』

本日は弥生・古墳時代の木材資源についてのお勉強、以前本ブログで紹介した方の講演は大変分かりやすく、他にもいろいろと勉強になった。来られると思っていた方々がほとんどおられなかったのは残念だったが、S先生には数年ぶりにご挨拶することができた。そういう中でようやく読了した電車読書は書店で見かけ、まえがきで学制歴史学研究会で『中世的世界の形成』と出会った体験が記されているのに驚いたのと(そういうものとは距離を置かれているように思っていた)、弟君のノーベル賞受賞(新聞報道によると著者が生活面で支援していたということ)に敬意を表して衝動買いしたものhttp://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0864-d/。石母田が中世の精神として評価した「貞永式目」「平家物語」「歎異抄」に着想を得て、中世のことばと声を探ろうという方法。まず親鸞からはじまり、藤原為房の妻(かなり前に知って気にはなっていた)・法然日蓮・泰時・恵心尼と、仮名文字で記された手紙に、中世が生み出した思想を読み解く。ついで仮名文字を用いた歴史書として「愚管抄」および軍記物語、その代表作としての「平家物語」を取り上げ、石母田が触れなかった中世を体現する本として「梁塵秘抄」に触れる。「ことばとしての声を書き留める文字を作る前に、一字一字が意味と由来を持つ漢字を学んでしまった日本人は、声から文字へという自然な流れと逆に、文字を声に移すために文字に合うことばを選ぶ、という努力を続け」なければならなかっとし、「声を文字(仮名)に書き留めることと、文字(漢字)を声に移すためにことば(和語)を選ぶ、という二つの営みが交錯する中で、文学的な文章を想像したのが中世文学の世界であった」とする。さすがの大家だけあり、とくに手紙について述べられている部分はいろいろ勉強になった。ただ「平家物語」は近年の研究では事実としては異なる理解がされている有名部分について、文章を味わうだけの叙述になっており、もう少し断りが欲しかったように思える。講義が終わり、振替休日をとることもあって、次の外仕事は来週金曜日。立て続けに更新したブログもしばらくお休み。といっても採点がまずは一苦労…。