wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

藤原彰『中国戦線従軍記』

本日は宍粟市で講演会。しゃべりが下手な上に時間配分もうまくいかずあたふたしたものになったが、何とか終える。お付き合いいただいた方々に感謝申し上げます。自宅から地下鉄と高速バスを乗り継いで3時間弱かかることもあり、読みさしの表題書を読了。日中戦争はいくつかの講義で取り上げており、文庫化されるに当たって著者の戦後の自伝も掲載されていることもあって、衝動買いしていたもの。職業軍人を父とし、文学・映画にもはまったものの、一高入試に自信が持てず、陸軍士官学校に入った著者が、1941年7月から華北の警備隊に配属され、44年3月からは大陸打通作戦に中隊長として従軍、45年5月からは姫路の決戦師団大隊長として敗戦を迎えた。とりわけ中国戦線では補給軽視・装備不足のなかで前線を転戦したため、掠奪・栄養失調史など生々しい実態が記されているが、生真面目だったため慰安所は全く実体験していないようで(存在は当然認識している)、そこは残念。ただ体験と専門家としての軍事情勢が整理されているため、幅広い読者に読みやすいものになっている。また敗戦後に東大に入学して、『中世的世界の形成』にひかれて中世史をこころざし百合文書を読めるようになっていたが、石母田本人から現代史をやれといわれて転身。歴研事務局で働くも非主流派として追われ(かつて共産党地下工作で軍人経験者として指導的地位にあったという話を聞いたことがあったが、全くの誤りで逆の立場だったらしい)、非常勤をしながら『昭和史』などの著述活動で生活しており、反対もあったが一橋に70年対策で採用されたことなど、戦後の歩みも興味深く、いろいろと得るところが多かった。中国戦線従軍記: 歴史家の体験した戦場 (岩波現代文庫)