wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(お仕事募集中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

笠原十九司『南京事件新版』

本日午前はシニア・午後は組合事務所。電車読書は講義で取りあげていることもあって購入していた表題書。著者の九条論の実証的誤りが批判されているため、少し危惧されるところもあったが、旧版から海軍航空隊の戦略爆撃の被害の詳細と朝香宮入城式のために殺戮が急がれたことが増補。集団虐殺の事例表も追加があり、事件の全体像を示したものとしては有益。なおこの間に蒋介石日記が公開されるなど国民党側の研究が進んでおり、それを踏まえていないという著者の九条論の誤りを広く宣伝している方による批判も見たが、旧版から蒋介石も含めて中国側の対応のまずさは指摘されており、それほど瑕疵になるとは思えない。それより気になったのは、盧溝橋事件後の陸軍内部での一撃論と不拡大の対立の叙述が、旧版では武藤・石原の発言が引用され4頁を費やしているのが、発言なしで数行になったところ。他の著者でも大枠は変わらないようだが、発言は講義レジュメにも引用しているため、それを本質としてよいのかは要確認。

南京事件 新版/笠原 十九司|岩波新書 - 岩波書店