wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

飯島渉『感染症の歴史学』

本日は組合執行委員会。課題は山積み、長年屋台骨を支えてきた方も近い将来の引退を表明され、前途多難の予感。そんな中、著者名をみて何も考えずに購入していた表題書を読了。著者について中国近代史における当該分野の専門家と認識していたが、「中国史の研究者として出発し、その後は感染症歴史学に関心を移した」(83頁)とあり、まず同時代の現状記録として「新型コロナのパンデミック」を扱った上で、天然痘・ペスト・マラリアと古代以来の世界的な感染症にまつわるトピックを紹介し、最後に「疫病史観をこえて」として、「感染症が歴史を変えたのではなく、感染症の衝撃の中で、人間が社会を変えた」として、「衝撃の程度や内容、変化のあり方やその理由をていねいに明らかにすることが、感染症歴史学の課題」だとされる。個々の出来事にとらわれすぎることなく、全体像を俯瞰的に捉えるべきという戒めとして、肝に銘じておきたい。また資料保存の重要性が強調され、著者自身が学術会議の「新型コロナウイルス感染症パンデミックをめぐる資料、記録、記憶の保全と継承のために」との提言に関わったとのこと。こちらも重要な視点で、全体として個別知識を伝えるというより、歴史学の方法論を提示する書。

感染症の歴史学 - 岩波書店