本日は自治体史の会議、来年三月までには原稿を仕上げなければならない。そういうわけで電車読書の備忘はタイトルに惹かれ衝動買いしていたもの。ドイツ現代史専攻の著者による19世紀末の細菌学登場を前後しての、感染症に関する認識、客観的には五感が無用の長物となった時代における衛生観念の歴史的展開をたどったもの。死体の匂いと同居していた18世紀以前、コレラの流行と悪疫祓いとしての燻蒸、都市民衆の抵抗、細菌学の登場と旧来の瘴気説とのせめぎ合い、瘴気説時代の防疫ののんきさから細菌恐怖症への転回、細菌の可視化による啓蒙の一方で見世物として享受された衛生博覧会、第一次大戦と性感染症への視点などの興味深い論点が示され、東方ユダヤ人の発疹チフスが助長した「ユダヤ菌」、シラミ駆除のために開発され絶滅収容所で用いられた「ツィクロンB」で締めくくられる。近代都市の実態、科学的認識がむしろ恐怖(排除)を助長することなど、歴史のダイナミズムが示され勉強になった。