wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

細谷昴『日本の農村』

本日は枚方3コマ。ネットに全くつながらず(同時配信しているため)、急遽ITセンターの方に来てもらい数分授業時間に入り込むことに。非常勤風情がリソース使うなとどこぞの専任が文句を言いそうだが(@gorotaku)、先週は問題なかったのにいきなり使えなくなるとどうしようもない。そんな中で電車読書の備忘。副題に農村社会学に見る東西南北とあるように、1934年生まれの著者が農村社会学の黎明期からの研究を振り返りながら、東北型と西南型、「日本社会民主化」という課題意識のバイアス、村落類型から外れる沖縄の門中・北海道の開拓村、白川郷の大家族の形成過程、経営体としての家が未確立で末子相続というより不定相続というべき鹿児島などを、先行研究にコメントを加えながら論究。その上で著者が長年フィールドとしている庄内地域について、中世から現代まで家および村落の機能の変遷をたどる。最後に大家族や不定相続は生産と生活条件に規定されたもので、日本では雇用労働力による大農場は形成されなかったとし、2018年小農学会の設立で締めくくられる。前エントリで異論を記したが、著者も西谷氏のいう核家族的なものが基本で、それが地域の生産条件によっていろいろな存在が生まれると考えているよう。庄内地域で田起が過酷な労働だったため、50歳ぐらいまでにどうにかして後継男性を確保する必要があった段階から、馬耕の導入によって熟練労働を継承するため直系相続になったという議論は圧巻。村落・家研究は改めて農村社会学の蓄積を振り返る必要があろう。なお著者が論究している一条八幡神社文書所収の『八幡町史』資料編8がたまたま非常勤先の図書館にあったので借りてきたが非常に興味深い。県内の中世村落研究者の著書で言及が見当たらないのだが、写真を見る限り写本とはいえ特に問題はないように見える。

筑摩書房 日本の農村 ─農村社会学に見る東西南北 / 細谷 昂 著