wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

大谷正『日清戦争』

昨日でようやく前期の講義が全て終了。本日は月曜日分の採点のはずなのだが、警察沙汰が続いたこともあってめっきり空き室だらけになった賃貸マンションの一室で、無気力に過ごしてしまった。何とか気を取り直して、月曜日15回目を念頭に置きながら衝動買いした昨日読了の電車読書の紹介http://www.chuko.co.jp/shinsho/2014/06/102270.html。結局講義は別のテーマにしたのだが、これまで当方が有していた日清戦争イメージを一新させるもの。これまで別の講義では、開戦時の朝鮮王宮占領、脚気論争と軍夫などについては立ち入って紹介したことがあり、旅順虐殺事件・東学農民ジェノサイドについてはいちおう知っていたのだが、戦争全体の構図については日本の圧勝と中国観の変容に重点を置いていた。しかし本書によると、条約改正交渉失敗を挽回するための陸奥の開戦強硬論に始まり、列強に配慮した消極論に立ちながら対外強硬野党・世論に押された伊藤首相の開戦決断、野津道貫桂太郎など陸軍司令官の全体の作戦計画を無視した独断専行、清領内での無理な作戦行動が旅順虐殺事件だけではなく、英露軍の介入すら招きかねない事態だったこと、陸軍(遼東半島)・海軍(台湾)別個の領土割譲要求、講和条約を妨害するための李鴻章暗殺未遂テロ、それを生み出した世論の熱狂と新聞の部数拡大など、その後の日本の対外戦争でも見られる、主戦派は個人や組織の利害しか考えていないにもかかわらず、世論は「日本の戦争」として熱狂し、冷静に判断を下すべき政治家は現状追認するだけというパターンがくっきりと表れている点に驚かされる。結局は清軍がそれ以上にひどすぎたので勝てただけということらしい。それにしても桂太郎のような無能な軍人が、なぜ元老にまで上り詰めることができたのだろうか・・・。