wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

加藤陽子『昭和天皇と戦争の世紀』

本日は枚方3コマ。朝のゴミ出し時に小雨で午後から止む予報なっだので自転車で駅まで出かけたが、行きは結構な本降り、帰りも駅に着いた途端に降り出すという、相変わらずついていない日常。そんななか、某非常勤先で1750円の資料購入費が支給されるということで、生協で値段から見つくろった表題書を読了。原著は2011年刊、終章でポツダム宣言受諾後に触れるのみ、購入した文庫版は2018年刊で、補章として「象徴天皇の昭和・平成」が加わる。すなわち昭和天皇が「独立した個人」たる政治的人間として、戦争にどのように向き合ってきたかを描いたもの。決断すべき諸事象について、多面的な状況を描きだした上で、そこに天皇本人の意思が絡み合いながらどのように進んでいったのかが示される。元老、宮中グループ、陸軍・海軍それぞれの統帥と軍令、政党、財界人という多元的な思惑の絡まり合いによって、対米英戦に突入していった動向が示されいろいろ頭が整理された。とりわけ春の講義でもとりあげる日中戦争で、宣戦布告がされないことで欧米への配慮から現地で軍政が組織できずよりウダウダになったこと、陸軍の講和志向に対して政府が止められない理由としてその決断が為替相場の下落につながるという意識があったことなどは取り入れることにする。著者の一般書はいくつか読んでいたが全体像の理解としてはこちらが最適で、やはり優秀な方。

『天皇の歴史8 昭和天皇と戦争の世紀』(加藤 陽子):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部