wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

太田猛彦『森林飽和』

土日は中世都市研究会@大阪。今年は夏のイベントは全てパスしたため、久しぶりにお目にかかる方も多く、学問的話もできたので有意義な時間になった。ただますます記憶力が悪くなっており、前にお世話になっているにもかかわらず名前を思い出せなかった方が多数あったのは残念。報告も一つ一つは興味深かったが、都市の構造・立地だけを問題にする方法は疑問で、後背地や経済構造の変化を抜きにした歴史像で中近世の断絶は克服できないのではないか。以前書いた論文が出る兆しがない中で、何を言っても説得力はないとはいえ・・・。愚痴はともかく、電車読書もすすんだのでその備忘を残しておく。このところはまっている山野に関する理系研究者による一般書。ただし生態学系の研究者ではなく、著者の専門は森林水文学・砂防工学というむしろ土木系で、列島社会における森林伐採と土砂崩れとの関係、海岸部における飛砂と砂防林の役割について論じられ、15世紀に本格化する森林収奪が明治にピークまで大量の土砂流出が起こる過程、その後の治山・砂防政策と森林利用の放棄により、現代は森林飽和により土砂が供給されなくなり、むしろ河床低下・海岸浸食が問題になっているとし、適切な森林利用と管理態勢の必要性を説くもの。特徴的なのは里山とはげ山を土砂流出という観点からほぼ同一視しているところで、現在でも労力がかかるとして里山の再生には積極的ではないのは、生態学系の研究者とは大きく異なる。また土木技術による制御には肯定的で、ダムについては否定的な評価はされていなかった。本日の議論にもあったラグーンへの影響など土砂堆積の重要性は興味深く、大スケールからの議論としていろいろ勉強になったが、歴史研究者としてはやはり微妙な関係にこだわりたいところhttps://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00911932012。明日からは新潟大学で集中講義。PCは利用しますがメールは微妙ですのであしからずご了承ください。