wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

横山智『納豆の起源』

本日は今期最後の試験・受験者6名。週1日とはいえ18年通った非常勤先ともお別れ。感慨深くもあったが、帰り際にロッカーとレターケースの処分の確認がありそそくさと帰路に。電車読書のほうは一時はこれで廃業かとも思ったが、何とかあと一年はめどが立ったことで衝動買いしたシリーズの最後https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00912232014。前回紹介した乳文化圏のほぼ外部に当たる照葉樹林文化圏の特質の一つとされた納豆に関する最新の調査報告。著者自身によるラオス・タイ・ミャンマー・インド・ネパールの現地調査によって、中尾佐助雲南センター説に対して、「東南アジア・タイ系」・「東南アジア・カチン系」・「ヒマラヤ・ネパール系」・「ヒマラヤ・チベット系」の複数起源説を主張したもの。調査した民族のほとんどが中国南部をルーツとしているとはいえ、製法・形状などにかなりの相違があり連続的にとらえられないという。ただカチン系・タイ系の接点となるミャンマー・中国国境地帯が未調査ということで、一定の留保がされている。また日本の糸引き納豆についても独自発生の可能性が示唆されている。この問題については『新猿楽記』の「納豆」を塩辛納豆(鑑真招来説あり、納豆菌ではなく麹菌を用いるもので著者は納豆に含めない)か糸引き納豆とみるかとも絡んでいるらしく(明確な初見は「精進魚類物語」)、機会があれば考えたい。こういう食文化は文献・考古遺物などによる歴史学的検討が困難なため、フィールド・ワークから系統樹をつくらざるを得ないのは分かるが、単一起源か複数起源かはなかなか難しいところ。なお著者は社会人・ラオスでの青年海外協力隊を経て大学院で地理学を学び研究者となり、ラオス焼畑調査で納豆と出逢ったという。乳文化論の著者といい青年海外協力隊からフィールド・ワーカーという道があるようだ。最大分量の試験の採点を終える前に花粉症に突入してしまった。いろいろ切羽詰まってきたのに最悪のタイミング。惚けた生活のつけが回ってきたようだ。