wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

池上俊一『魔女狩りのヨーロッパ史』

本日中百舌鳥1限の往復で読みさしを読了。ヨーロッパ全域における魔女狩りの全体像を総括したもので、キリスト教神学・悪魔学による「魔女妄想」の成立、「神への大逆罪」として拷問が許された裁判制度、16世紀の商業革命による共同体秩序のゆらぎで呪術に通じた「賢女」が「魔女」として指弾されるようになった、領主の「青信号」を前提に民衆間のあつれきから訴訟開始となるのが一般的だが、熱狂的な君主もくしくは民衆のエネルギーをコントロールできない場合に激しさを増す、カトリックプロテスタント双方で発生し最大10万人近くが犠牲者になった、集団的な「魔女妄想」が理性重視の「脱魔術化」がすすむことで収束、「魔女狩り」的なものは近年にラテンアメリカ・アフリカなどでも発生しているが、人類共通の暗い人間性・社会性の基層に形式合理性が組み合わさったヨーロッパの深い闇で、理性が陥りやすい罠にはまったからこそ起きたものだという。全体像は非常にわかりやすく、「呪術的な中世」よりも「合理主義的な近世」だからこそ発生した現象であること、ルターなどを典型例として示されている。ただ「ザハト」(魔女妄想)の内容は詳細だが、結局何だったのかは説明されていないように思われ、個別事例が余り紹介されていないのも、それを目的としていないとはいえ残念。

魔女狩りのヨーロッパ史 - 岩波書店