ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』(村井章子訳)
本日はルーティン姫路。昨年と異なり朝夕の通勤すら耐えられない暑さのなか、何とか家にたどり着く。電車読書のほうは、単行本が並んでいたときから気になっていたが、文庫化されたことでようやく衝動買いするにいたったものhttps://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167910600。著者はアメリカ人でもともとアンシャン・レジーム期のフランス史の研究らしい。中心的内容は、ルネサンス期のイタリア、16世紀スペインの失敗、17世紀オランダの成功、フランス絶対王政と会計、イギリスの成長、アメリカ独立戦争とその後の鉄道敷設と公認会計士の誕生といった、19世紀までの西欧経済史の「王道」が会計帳簿の精確さとずさんさのせめぎ合いのなかで叙述され、最初に複式簿記誕生の前史としてのバビロニアからローマ、最後にアメリカ世界恐慌による銀行・証券の分離とその自由化および公認会計士のコンサルタント化の帰結といえるリーマンショックに触れられ、「精算の日」の倫理性が強調される。また特別付録として日本の事例が近世商人の発展として好意的に紹介されている。全体の枠組みはまさにプロ倫で、メディチ家は新プラトン主義で破綻し、イギリス非国教徒が富は信心と会計の産物としてみなしたことで成功したなど、典型的なあてはめにみえる部分が少なくない。ただ個別の事例は南海泡沫事件の顛末などずさんな事例も含めて興味深く、近代科学の基礎に複式帳簿的思考があったことも納得できるものである。なお訳者はピケティなどいくつものベストセラーに携わっているらしいが、大変読みやすかった。