wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

玉木俊明『<情報>帝国の興亡』

昨日は京都、はじめて移転した某学会事務所に入る。電車読書のほうはこれまた明日から始まる講義に備えたもの。以前に同一著者のものは読んだことがあり、西欧中心・勝ち組グローバル・ストーリー的方法が余り好きになれず、いくつかスルーしていたのだが、表題と関わる学部の講義担当ということもあって、衝動買いしてしまった次第http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883863。副題に「ソフトパワーの500年史」とあるように、覇権国家オランダ・イギリス・アメリカについて、そのツールとして出版・電信・電話に焦点をあてて論じられる。もともと著者はオランダの専門家だったはずでその優位性に関する叙述は説得的で、西欧諸国の新刊出版点数の推移という有益なグラフも収められている。大英帝国と電信についても元ネタとなる洋書を翻訳紹介したそうで、ロイター通信のことなどある程度は知っていたが、ロンドンへの通信日数の短縮過程を示した地図は有益で、1850年ぐらいに飛躍的発展があったというのもいろいろと興味深いところ。その一方で20世紀のアメリカと電話が結びつけられているのだが、広大な国土における経済統合に果たした役割が抽象的に述べられているだけで、余り説得的ではなく著者自身も自信なさげ。また現代を中核をもつ近代世界システムの終焉と捉え、それをインターネットとの関係で説明されるがこれも一般論の域を超えず、グローバル企業についての位置づけがはっきりしないまま。確かに歴史家が簡単に捉えられる時代ではなくなっていることは確かなのだが、せめて20世紀のアメリカについてはもうちょっと何とかしてほしかったところ。また分量の限られた新書の割に「はじめに」と「第一章」が被りすぎているように感じた。結局気が焦るばかりでいろいろ進まず、明日2・3・4の講義も警報が出るか微妙で落ち着かないところ。このままでは午後だけ休講で、大雨の中を帰宅し別の日に補講という最悪の結果になりそうだが…。