wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

池田嘉郎『ロシアとは何ものか』

本日近所のシニア向け講義に出かける前に時間があったので、読みさしを読了。財政難からインドとの二択で、歴史側ということで衝動買いしていたもの。ロシアが土地の私的所有権が未成立(全土所有者たる専制権力に属する)、皇帝と教会は不可分の関係にあり西欧で生じた個人としての君主の上位に立つ公権力概念が成立することなく、法の上位に君主が立ち続け、人間間の支配関係は直接的な力関係に規定するという特質が、帝政・共産党独裁・大統領独裁で一貫して通底していると主張。その骨子となる論考と、日ソ関係・革命期・現代・クリミア半島史のモノグラフからなるもの。著者の岩波新書の文体は全く性にあわなかったが、本書は背景がちゃんと説明されており、非常にわかりやすかった。またソ連の体制について、全体主義論を否定した上で、むしろ革命前の身分制秩序に似た団体単位での住民編制に特徴を見出し、「近代化」に功を奏したが「近代」自体は導入されなかったことで頭打ちになったと評価。この間のロシアを論じた他の著作も同様の論調だが、結局は「アジア的専制」に行き着くのは何だかなあというのも否めない。もっとも現在「子どもの権利全権」という役職があり、ロシア正教的な伝統的家族観を推進しているという(著者がNHKのインタビューで通訳を勤めというのも驚き)。もとは子どもの権利条約に端を発したものの換骨奪胎さをみると、「男女共同参画」の日本における経過とも比較可能かもしれない。

ロシアとは何ものか -池田嘉郎 著|全集・その他|中央公論新社