wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小野真龍『天王寺舞楽』

本日は枚方3コマ。帰路の電車が接続待ちで10分ほど遅れたが、ちょうど最寄り駅で夕立が止むという、不幸続きの人生には珍しい幸運。そういうなかで電車読書はタイトルで購入していた表題書。最初に宮内庁主席楽長を勤めた方が四天王寺聖霊会を観覧して、近代の宮内庁雅楽が「御神楽」・「饗宴雅楽」・「大法会雅楽」の三本柱から最後を欠落させてしまったという手紙を紹介した上で、古代・中世における四天王寺楽人の位置づけと活動、戦国期に京都楽人が大打撃を受け、天王寺楽人が養子に入るなどの変化があり、近世には京都・南都・天王寺の三方体制が形成されること、明治維新後に三方楽人と江戸紅葉山楽人によって仏教的要素を排した宮廷雅楽が形成されたこと、そうした中で西本願寺の主導で残った末寺願泉寺を中核に残った楽人達によって雅亮会が結成され、天王寺舞楽の伝統が保存されていることが紹介され、四天王寺石舞台で演じられる天王寺雅楽が、大乗仏教の精神による民衆に仏縁を結ばせることを重視している点に、仏教的要素を排除した宮内庁楽部の雅楽と相違を見出し、神仏習合時代の仏教的雅楽の伝統を忠実に守っていることが強調される。大略の流れについては恩師に何度も聞かされていたので理解していたが、中世における四天王寺楽人の秦河勝伝承、厳島四天王寺楽人との関係や、近世の相論など個別事例を知ることができ有益。なお著者は大内楽人が四天王寺楽人との同座を避けた事例について、触穢観念を強調するがこれは疑問で、侍・凡下という身分制の問題と理解すべきではないか。なお宮中楽人の研究は文学系で進んでいるはずだが、全体像については今も林屋辰三郎氏が基本文献になっていることに今更ながら気づく。なお著者は願泉寺住職として雅亮会理事長を務めるとともに、京都大学宗教哲学で博士号を取得し『ハイデッガー研究』という学術書まであるというのが驚き。

天王寺舞楽 - 法藏館 おすすめ仏教書専門出版と書店(東本願寺前)-仏教の風410年