wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

三浦清美『ロシアの思考回路』

本日は自治文化財関係の会議。今月末にお役御免になる職場の関係で委員を引き受けたのだが、もう一人のバリバリの専門家に比してこちらはご説拝聴するだけ。分担的に来年度は近世文書を扱うことに・・・。場所が片道2時間のため電車読書は進み、読みさしの表題書を読了。当初は出版社の関係でノー・マークだったのだが(岩波から同性瑠璃の本が出る時代とはいえ)、某所で評判を聞き購入してみたもの。著者は中世ロシアの研究者で、副題「その精神史から見つめたウクライナ侵攻の深層」とあるように、キリスト教の受容から、ロシア・ウクライナの歩みを辿ったもの。キリスト教でも東方正教会と西欧カトリックでは、①イスラームインパクトを受けてイコン崇敬を再確認して神であるイエス・キリストが人間になったという恩寵を強調する東方、②ラテン語にこだわる西欧に対して、布教のためにスラブ文語を成立させた東方、③ビザンツ暦と西暦、④アリストテレスなどキリスト教以前の哲学を受容しルネサンスがおこった西欧と、アカデメイアを閉鎖した東方、⑤教権と俗権が分離した西欧と、世俗権力が宗教的権威を兼ね備えた東方、という世界観の相違があるとし、キエフ・ルーシにおける正教の受容、「天上の神の地上における代理人たる専制君主」を志向するロシア文化の成立、モンゴルの襲来、北東ルーシ(ロシア)における「モスクワ大公-家臣団-全ルーシ府主教座-荒野修道院と修道士-農民」という枠組みの成立、南西ルーシ(ウクライナ)がポーランド・リトアニア共和国支配下に入ったことによる学校文化の受容、ウクライナを通じて西欧文化を受容しつつも正教原理主義としての神の代理人として拡張要求をもつその後のロシア、という像が示される。キリスト教史に疎く全体の妥当性は判断できないが、視点としては参考になった。なお文体はですます調だが、かえって読みづらかった。また「天動説を唱えたミコワイ・コペルニクス」(199頁)はご愛敬か。

https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594093198