wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

沢山美果子『性からよむ江戸時代』

本日はルーティン姫路。相変わらずほぼ電車は仮眠状態だが、積ん読の表題書をようやく読了。これまで出産・子育てについての著作に学び、講義でも使わせてもらったが、本書は男女の性交渉に重点がおかれたもの。妻との行為を日記に書き残した小林一茶にはじまり、相変わらず興味深い事例紹介が続く。なかでも「隠売女」(近世は業者が隠して売春させたということで「かくしばいじょ」、近代はタテマエでは遊女屋ではなく貸座敷であることから女性そのものを「いんばいおんな」と呼び蔑視が強まるという)を幕府が摘発して、吉原が入札して一人一人の金額がわかりそれが重要な供給源になっていたこと、相対的に10代の少女より20代の成熟した女性のほうが高値で取引されていること、江戸吉原・大坂新町周辺のみで捨て子養育者に「悪敷奉公」をさせないという誓約文言があること、など生々しい。また生類憐れみの令以降に性と生殖への権力による介入がはじまり、庶民層でも家の存続が重視され仲人を立てるのが正式の婚姻とみなされる一方で、商品経済の発展で庶民層相手の遊所が各地につくられ、子を産む妻と性愛の相手となる遊女という分離が一般化して、近代へと展開していくという見通しも興味深い。その一方で、98頁の登場人物、120頁の吉田伸之批判、160頁でなぜ下野の宿場が唐突に取り上げられるのかなど、文意不明のところがあったのは残念。

性からよむ江戸時代 - 岩波書店