高槻泰郎『大坂堂島米市場』
引き続き、電車読書の備忘。大坂地域史ネタは教養の講義で何度か取り上げることもあって衝動買いしたもの(某氏の著作は避けているのだが…)http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000312418。前半部分の概略の説明はそれなりに理解していたつもりだが、先物取引が現物ではなく米切手という大名発行の手形のやり取りだったことは全く意識しておらず、世界初で日本証券市場で導入されたのは30年前という高度なものだったということ。また「江戸幕府VS市場経済」という副題になっている後半の幕府と大坂商人のしたたかな取引は大変興味深く、最後に紹介されている米飛脚・旗振りによる大坂取引価格のハイ・スピードな情報伝達など(明治の事例では和歌山3分・岡山15分という驚異的なもの)、前エントリーの酒の評価と合わせて近世後期社会の魔発展の様相についていろいろ勉強になった。著者は学部慶応・修士阪大・博士東大でミクロ経済分析を学びながら、当該分野に取り組んでいるようだが、ここまでわかるのはさすがというところで、地租が金納化される近代になって粗悪な米が出回るように藩による良質米の追求が農民層の利益になっていなかったことが示唆される一方で、公儀権力の「撫民」的経済政策が明らかにされるなど、全体の評価も冷静。升屋再建で著名な山片蟠桃がより積極的な役割を果たしていた可能性が示唆されているのも、思想史がどう評価するのか興味が惹かれるところ。ただ「堂島米会所」は近代の用語として「米市場」が採用されているのだが、近世史の概説では「米市」が一般的で、「会所」というのは見たことがない気がするのは、経済史と文学部歴史の相違なのだろうか。