wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

和歌山博物館二題

 

明日が学祭休講(・・・)ということもあり、土曜日から四連休。もちろん昨日はほぼ遠隔講義確認テストの採点・水曜日の講義準備もまだとはいえ、九月末からの全く余裕がない状況からすると一段落。そういうわけで本日は和歌山で秋の企画展を観覧。

まずは創建1250年記念特別展「国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史」:和歌山県立博物館。著名な平安絵巻だが、あらためて熟覧するといろいろ発見がある。また19世紀の大和絵師冷泉為恭筆とされる写本は彩色鮮やかで、原本ではよくわからない部分も描かれており重要。また19世紀の浮世絵絵師岩瀬広隆筆とされるものは、焼失した部分を独自に復元しており(為恭筆はその部分は空白)、それはそれで興味深い。また縁起絵は本来の縁起を後白河周辺で改変して図像化したとされ、もともと粉河寺周辺で成立した縁起や後に成立した説話を加えた近世の絵画も存在。また法燈派寺院が中世後期に存在感を持っていたらしいこと、刀工・金物大工の存在・さらに王子村文書まで盛りだくさんで、図録も外部の特別寄稿者もあわせて充実。ただし現地で成立した縁起の登場人物「富久字刀自」を、延喜の文書にみえる「平田宿祢福刀自」と同一とするのは、少し危うい印象をうけた。

続いて和歌山市立博物館ウェブサイト―展覧会へ。こちらは「創設1250年 日本遺産認定記念特別展 紀三井寺展」を開催中。すべては出品されていなかったが(現地でもご開帳中らしい)、平安中期の丈六仏がそれなりの数存在しているのは圧巻。中世までのほとんどないというが、仏像だけは多大な努力で守られてきたということ。また参詣曼荼羅塩竃が描かれているのも興味深いところ。またこちらは特別展会場が常設展と別にあるため、通史展示も観覧。とりわけ地形の変遷が示されている点はありがたい。スポット展示として太田城水攻め堤防の調査も紹介。