wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

姫岡とし子『ジェンダー史10講』

本日は枚方3コマ。京阪が意外なほど空いていて驚き、雨模様だったが、観光客は見かけず他大学も休講だったのだろうか・・・。ともあれ電車読書の備忘、著者名を信頼して購入していたもの。全体としては研究状況の整理が分かり、近代批判として歴史学パラダイムシフトに大きな役割を果たしたことが理解できるもの。ただ「女工哀史」を批判する外国人研究者による聞き取り研究が高く評価されているのは、当方が未読とはいえ大きな違和感。当人による積極的な意義づけがあったというが、日本人「慰安婦」にその時代がもっともよかったという証言があったように、もともと劣悪な家庭環境の出自で(製紙女工は零細小作、関西の紡績女工も近在の一般家庭の出身者がほとんどいなかったはず)、親(家)に貢献できたというのはよくあるパターン。また女工にもささやかな「青春」はあり、自分たちの労働に何ら意義が見いだせなければ人間心理としてやっていけず、証言することなく結核などで命を落としたケースも少なくなかった。無抵抗な「受け身」と評価されてきたいうが、男性中心的なバイアスはあったとはいえ労働運動研究も古くからあった(高井としをの伝記はここでも紹介した)。客観的な位置づけをスポイルすることは、「歴史修正」にもつながるもので残念。当方は観念論的・図式的フェミニズム研究には強い抵抗感があり、著者の日独紡績業比較は非常に実証的だと思っていたのだが・・・。

ジェンダー史10講 - 岩波書店