wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

石川日出志『農耕社会の成立』

岩波新書で日本近現代史シリーズ・中国近現代史シリーズに次いで日本古代史シリーズが出るということで、その一冊目。旧石器時代から古墳成立までを取り扱っており、著者は関東の弥生研究者らしい。金・月で読み終えたが中身は大変バランスがとれており、通史として非常に読みやすくなっている。旧石器ねつ造事件・弥生成立論・金印論・邪馬台国論など主要なトピックが丁寧に紹介されており、この前に読んだ意味不明な古墳論とは雲泥の差。独りよがりではなく問題の所在を示すとともに、さりげない自己主張もされており、新書というスタイルの王道を示したもの。また弥生時代の地域性を九州・中国・近畿・中部から関東・東北それぞれの特質をまとめた上で、北海道続縄文・南島・朝鮮まで整理したうえで、歴史過程を述べた部分はたいへん勉強になった。西国(弥生)・東国(縄文)という研究者分布の中で関東の弥生研究者というマイナーな地位にあるからこそ、こうしたバランスを保った叙述ができるのだろう。最後には後期旧石器から古墳までの地域ごとの対照表も掲載されているなど図版も豊富で、いろいろ利用できそうだ。この時期の話は来年度予定7種類の講義科目でも1種類で1コマ取り上げる程度だが、久しぶりによい本に当たったといえるhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1010/sin_k552.html。もっとも当シリーズの全ラインナップが余り魅力的とは思えない点は残念なところ。中世史もいずれ刊行されるのだろうか。それにしても授業準備が全く終わらない。本日読み終えた本は全くの期待はずれで、また別のものを探さなければならない。日本史研究者で朝鮮戦争をまともに取り上げた研究はないのだろうか。