wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

青山和夫『マヤ文明』

今日は講義中に信じられないことが起こり、思わず声を荒げてしまう。教養課程の劣化も甚だしい。珍しく出ている公募に当たっても状況は変わらないだろうが、裁判所は死刑囚には自己責任による立証を求める一方で、国の結果責任は問わないという姿勢を明確にしており、せめて老後の蓄えだけでも得たいところ。昨日で終わらなかった授業準備・締め切りを過ぎた原稿・公募書類など仕事は山積みなのだが、とりあえず水曜日に読了した電車読書の備忘を残しておく。石器研究の専門家として豊富な調査経験を有するという著者によるマヤ文明の入門書http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1204/sin_k647.html。9世紀の最盛期のみがクローズアップされるが、紀元前1000年から16世紀まで盛衰を繰り返しながら神殿ピラミッドが造営されていたこと。マヤはスペイン人による呼称でそもそも全体を統一する王権が形成されたことが一度もなかったこと。人類史で最初に数字のゼロを発明したのがマヤ文明であること(インド側では無とゼロの関係が議論されているようだが)。石器のみで達成された文明で、専門の天文学者・書記は存在せず同一人物が様々な知的労働を兼業していたこと。「謎と神秘」を誇張した研究当初から科学的な研究手法により「都市なき古代文明」説が否定された状況の一方で、現代もマス・メディアなどを通じて古いマヤ文明観が再生産されていることへの批判など、いろいろと勉強になった。ただし概説書ということで日本との比較がされているが、「日本人は、南米のインカと同様に、手の指だけを使って、一〇進法で数字を数える」(22頁)など、中国文明によってもたらされたものを「日本」とくくっている例は正確とはいえない。またカカオ豆が貨幣として流通したという興味深い事実が指摘されているが、メキシコ中央高地でカカオ豆の外皮に詰め物をした偽造カカオ豆貨幣が出回ったとするのは(132頁)、模造もしくは代用貨幣として認知され流通していたというべきではないのか。さらにエジプトなどと同じくピラミッド建設における民衆の自発性が強調されているが、周囲の遺跡・遺物の評価だけで証明できているのかはやや疑問も残るところ。