wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

姜尚中・玄武岩『大日本・満州帝国の遺産』

昨日の電車でほぼ読み終え最後の節だけ残っていたが、少し大きめということもあり明日の電車は次の本に取りかかることにして、残りの分を明日の授業準備前に片付ける。不充分ながら先週に原稿は提出し、今度の土日は休みということで少しだけ余裕ができた。さて本書の内容は、いわゆる「満州国」の遺産として、産業部次長・総務庁次長として統制経済に辣腕をふるった岸信介と、満州国軍学校を成績優秀者として卒業し軍中尉にまで昇進した朴正熙について、満州国での経験と人脈が戦後における両者の活動と癒着関係(連続性)に大きな意味を有していたことを主張するものである。おわりにで「厖大な『満州国スタディーズ』の学問的な蓄積を考えると、本書に資料的に新しい発見があるわけではない」とあるように、前半部分は全く面白くない。朝鮮総督南次郎・関東軍石原莞爾の妄想めいた文章を字数稼ぎのように長々と引用するだけの単純な日帝論となっており、日本側の複雑さ(不統一さ・首尾一貫性のなさ)が抜け落ちており、本書の主題に合わせた強引な叙述で、しかもダブりが多い。その一方で本書によってはじめて知ることができたのは、韓国に対するアメリカの意外とも言える冷淡さで、単純に米ソ冷戦(実際には熱戦を経験)の最先端というだけで理解できない複雑さが興味深い。また戦前の早稲田大学歴史学を学び満州で活躍し、戦後は「花郎徒ファランド」に民族精神の起源を求める「新羅中心史観」を唱え朴の維新体制のイデオローグとなった歴史学者李瑄根は、かの平泉澄と比較研究をすすめると興味深い対象となるのではないか。主要人物略伝で触れられる岸と松岡洋右などの縁戚関係も興味深く、日本保守政治の研究には欠かせない視点であることが改めて痛感させられる。http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2807181&x=B