wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

黒田俊雄編『村と戦争』

今年の授業はほとんどが以前の使い回しになっている。なかなか準備の余裕がなくせいぜい画像をスキャンするのと、レジュメを若干手直しするのみで終わってしまっている。ただし今年度から1回増えて15回になったので、その分の追加の必要がある。そういう事情で軍事史料論のために図書館から借りてきたのがこの本。編者は改めて紹介するまでもない著名な中世史家で、荘園体制・権門体制・顕密体制という概念は、著者物故から10年以上経つにも関わらず生命力を保っているという非常に希有な例となっている(近年では、とんでも批判をするI氏・H氏などもいるが)。一方、本書は著者が生まれた富山県砺波郡庄下村で兵事係を勤めた出分重信氏が、終戦時の焼却指令に敢えて背いて残したことについて、本人へのインタビューおよび著者自身の証言記録、および近代軍事史の大江志乃夫氏による解説からなるものである。この兵事関係史料の伝来という希有な事実は知っていたが、出分氏の人となりについては今回初めて知ることができた。戦前村落の指導層としての自覚と、戦争協力への心情および戦後の反省などが、実感をもって理解できるもので、これをどう授業に入れ込むかが問題だ。なお壮丁名簿には黒田本人の名前もあり、そのこともあって専門外にも関わらず編者としてはじめに・あとがきが執筆されているが、重厚な文体は中世史関連の研究書と同じで、懐かしさとともにすごみを感じることができた。