wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

太田昌克『日米「核密約」の全貌』

後期の授業の最後がなかなか決まらず、購入してみたのが本書http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480015310/。米情報公開で明らかになった文書類およびインタビューなどを駆使して、鳩山・岸・池田・佐藤内閣期の日米交渉と核密約についてたどったもの。興味深かったのが米側が組織的に対応し、軍事・外交戦略のもとで最大限の成果をあげるべく行動していたのに対し、日本側では政府部内で十分に検討されることなく(したがって密約すら引き継がれないことがままある)、各首脳が個別に対応していた点で、戦後保守政治家のエージェント的性格が浮き彫りにされている。また佐藤はもともと非核二原則を考えていたのが、諸事情で実際には守られていないことが明確な「持ち込ませず」を加えた三原則になったこと、佐藤の密使である若泉敬が思いつきで提案した①「非核三原則」の堅持・②米国の「核の傘」への依存・③核軍種の推進・④核エネルギーの平和利用の推進が日本の核政策になったこと、NATOと異なり核兵器使用に関して日本側に全く発言権がなかったことなど、いろいろと勉強になった。その一方で、本の構成は問題提起・章の構成の説明・本論・各章のまとめ・全体のまとめと展望というオーソドックスになっているが、電車読書と言うこともあってかえって読みにくく、とりわけ米核戦略についての説明がまとめになってから出てくるため途中での密約の羅列の意味がすぐにはわからなくなってしまっている。また最後に今後の進むべき方向としてNATO型が志向されているが、米戦略に組み込まれるだけで、核保有国である中国・ロシアとの関係を米依存で考える限り不平等な構造が解消されることはないと思われる。週末は結局悩んだだけで報告の方針がなかなか決まらない。シラバス書きもありなかなか頭の整理ができないところが問題。