wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

井上寛司『「神道」の虚像と実像』

日曜日は京都で研究会(さすが信長ということもあり大盛況、東京のHさんの顔は初めて見る)、今日・明日は試験、ということで夏休みはまだ遠く電車読書も続く。本書は「神道」が「日本固有の民俗宗教」ではないとして、古代から近代までの宗教的政治イデオロギーとしての「神道」の特質を明らかにするとともに、もう一方の特質である神祇道としての融通無碍な多神教を構成するその有機的な一部としての「神道」のあり方に徹することが必要であるとされる。古代・中世・近世・近代・戦後の時代的特質を概観してから、天皇祭祀と神社の成立、神仏習合と隔離、吉田神道から儒学神道を経て国学への転換、明治維新から国家神道体制、戦後改革と柳田「神道」論の普及と問題点という各時代の展開が整理されており、いまどき珍しいほど一般概説書としてオーソドックスなスタイルがとられている。一人の歴史家が通史を執筆するというのは重要な役割であり、それを実現したという点では評価されるべきものといえる。ただし新書という分量にも関わらず余りにも総花的で、一つ一つの検討という点では不十分で、時代ごとの変化も断絶が強調されている点は否めない。そのため「神道」言説の展開はまだ追えても、それを受け入れる側の主体性は不明確で、民衆は近代天皇制の犠牲者として強調されてしまっているのはやはり問題だろうhttp://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288109。夏風邪のせいか本日の午後も寝込んでしまい、試験の採点がなかなか進まない。早く終えて少しは勉強しなければならないのだが・・・。