wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

藤木久志『中世民衆の世界』

著者は戦国大名研究からスタートし、90年代に「自力の村」論で大ブレークした研究者。故網野善彦が同時期に商業・都市の無批判な讃美に転じるなかで、著者の飢饉・自力救済の苛酷な中世社会で生きるたくましい民衆像は、関東の若手を中心に絶大な支持を受けることになった。当方もその頃の著作は必ず購入し、講義などでも積極的に紹介してきた。しかし近年では過去の著作の再構成が別の形で出版されることもあって、スルーするものもあり、久しぶりに購入して読む。一般書ということもあってこれまで読んだことのある著者年来の主張も多いが、惣堂に残された旅人たちの落書きの紹介は全く知らなかったため大変興味深く読んだ。新潟・山形などで赤外線カメラを利用して戦国期の落書きが判読されているようで、旅人の行動半径・意識・男色(少しまじめに受け取りすぎのような気もするが。下ネタは実際の行為とは別に書かれるものだろう)などが解明されているようだ。他地域でも調査が進めば、大変可能性のある分野となろう。なお著書で気になったのは「切実な認識」「必死の対応」「緊迫した危機管理策」など修飾語が目立つ点で、以前の著作にもあったがより多用されているように感じた。http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1005/sin_k534.html 土日で原稿に取りかかるがすすんだのはわずか3枚。全くの研究論文ではないにしろ、先行研究そのままというわけにもゆかず、悩みながら時間だけが経ってしまう。