wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

寺内直子『雅楽を聴く』

土日は連続して別のクローズドの研究会・飲み会が続く。いろいろ勉強になったし、何れも旧知のメンバーといろいろ話ができて盛り上がったがさすがにきつい。そういうわけで本書は昨日には読み終えていたが、ずれ込んでしまったもの。まず雅楽について説明がされ、ついで京都御所(現実には演奏されているわけではなく平安期の雅楽の概説)、奈良春日若宮おん祭、大阪四天王寺聖霊会、東京宮内庁楽部、国立劇場と現在も雅楽が演奏されている場を取り上げ、サウンドスケープ論を通じてそのあり方を説明しながら、現代までの雅楽の通史を描いたもの。著者は東京芸術大学出身のようだが、近現代・前近代の雅楽に関する単著があるようで、音の響き方のような演奏場面の状況も、歴史的背景もしっかり捉えられており、コンパクトな通史としてのセンスが感じられる。また宮内庁楽部を「正統」として絶対視することなく、その待遇面・自由度という明治以来続いている問題点が指摘されるとともに、室内楽的で重要無形文化財に指定されている宮内庁楽部と、開放的な屋外空間で演奏され重要無形民俗文化財に指定されている四天王雅楽会の、どちらか一方だけが正しいわけではなく、等しく価値があるという視点で捉えられている点も共感できるところである。四天王寺聖霊会については故河音能平が思い入れをもっており(文章で残されているのは短文のみで、本人は老後の研究と口にしていたのにまとまったかたちで発表されなかったのは残念)、大学院時代に見た経験があるが全く覚えておらず、若宮おん祭はスケジュールが合わなかった。著作集も出たことだし本書片手に足を運べればよいのだがhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1103/sin_k582.html