wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

岡本隆司『世界史序説ーアジア史から一望する』

本日は組合執行委員会、いろいろあるが取りあえず前に進む。そんな中、六日の出張でそこそこ進んでいた表題書を読了。著者の専門は中国近代史で、そこそこ評価は高いらしいが、ろくでもないタイトルの一般書を出していることもあり、これまでは敬遠していた。ただ後期の講義のこともあり、アジア側からどうまとめられるのか興味もあったので、衝動買いしていたものhttp://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480071552/。近年のグローバル経済史が18世紀の「大分岐」を強調するのに対して、それ以前を同質の社会であったとみなすことに疑問を呈した上で、ユーラシア史を軍事に優れた草原遊牧世界と経済的に優越した農耕定住世界の対立と交流のダイナミズムで描き、その到達点にモンゴル帝国を位置づけ、そこでは権力と民間、政治と経済が一体になる構造にはならず、その後に至るまで国家は多元構造で「法の支配」は実現しなったとする。それに対して西欧はそこから隔絶された草原・遊牧の世界を欠いた一元構造でキリスト教一色、それが封建制を経て「法の支配」・政教分離を達成したことで、近代世界経済は成り立ったとし、「分岐」ではなくはじめから生態環境に規定されて両者は異なっていたとする。そこではむしろ西欧の「中世」が評価され、次いでマルクス石母田正までもが呼び起こされ、「アジア的停滞」と「日本中世封建制」の対比を評価し、儒教的観念を体得せず、近世勤勉革命(なぜか速水融が引用されていない)による西欧と並行した輸入代替・国産化を実現。さらに西欧近代を模倣した日本の先駆的な実践がアジアに大きな影響を与えたとし、日本を「安易に東アジアとみなす既成観念」を批判する。ユーラシア史の部分はもう一冊積ん読になっているより専門に近い著者によるものを片付けてから評価するとして、日本に関わる部分については、戦後史学のなれの果てがこれかと思うと頭を抱えるばかり。ケントなんちゃらまでは守備範囲にする必要はないと思うが、これは海域アジア史辺りからでも何かアクションが欲しいところ…。