wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

妹尾達彦『グローバル・ヒストリー』

物理的に重たかったので電車読書ではないが、岡本著書のところで触れたため少しだけ備忘http://www2.chuo-u.ac.jp/up/isbn/ISBN978-4-8057-4151-1.htm。書店でたまたま見かけて衝動買いしたもの。叙述の中心はユーラシア大陸史で、①環境の境域に立地する境界都市が政権の拠点になる、②境界都市は農牧境界地域から沿海地帯に移行する、③近代社会は内陸から沿海への境界都市の移行とともに出現する、という仮説をもとに組み立てられたもので、国民国家が政治体制の如何にかかわらず国民広場を持つこと、21世紀をユーラシア大陸経済圏の形成として捉えること、日本は遊牧勢力の征服を経験することなく大陸の普遍的概念を拒むことで国家の独自性を構築してきたが、20世紀末以来のアジア諸国の経済発展と福島原発事故により「西欧以外の唯一の成功例」と呼ばれた時代は遠く過ぎ去っており、東アジア共同体構想は当然の前提として締めくくられており、岡本著書とは全く方向性は異なる。出版社が著者の勤務校・全15講で構成・各講の最後に「考えて調べてみよう」が立項されていることから、共通教育の教科書として利用されているものと思われるが、何れも著者自身の論文(国民広場まであるのは驚いた)に裏打されたハイレベルなもの。講義する側としては理想的ともいえるが、受講者にとってはどうだろうか…。