保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』
本日は千里山。少し行き違いはあったが何とか乗り切ったと思ったら、図書館に手帳を忘れるという大失敗。先ほど電話したら忘れ物として届けられていないとのことで、困ったこと。ろくな事しか続かない…。そんななかようやく読了したのが表題書、いくつか話題になっているのを見かけ文庫版として再刊された機会に衝動買いしたものhttps://www.iwanami.co.jp/book/b355586.html。「ケネディ大統領がアボリジニのカントリーまで出向き、土地返還のためオーストラリア政府に軍事的圧力をかけた」「キャプテン・クックがアボリジニを大量虐殺した」という語りを、虚偽とも神話ともみなさず、彼らによる歴史実践として理解しようとした著作で、いわゆる実証主義的歴史学に対して根源的な批判としてクロス・カルチャラライジング・ヒストリーを提唱したもの。中世人の語りを相手にしているものとしてはそんなに違和感なく(むしろ有益)、文体も含めて非常に面白く読むことができた。なお著者はオーストラリアで現地調査(生活)のうえで博士論文を提出したが、その後進行ガンに犯されながら、自身の手で本書は企画されたらしい。そのため「幻のブック・ラウンチ会場」での質疑応答・草稿をアボリジニ長老に説明した際の反応・博士論文の査読報告など他研究者による賛否両論、自身の依頼によるテッサ・モーリス=スズキ・清水透による解説が加えられ、あとがき提出四日後の2004年5月にオーストラリアの病院で亡くなったらしい。博士論文では考察されていたらしい「ケネディ大統領~」の分析が抜け落ちてしまっているのは残念だが、本作りとしても非常にユニークなもの。1971年生まれというからすごい才能だったことが分かる。なお清水透氏がこの時点でインターネット社会を文字社会から無文字社会への転換としているのもさすがというところ。