wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

アルフレッド・W・クロスビー著・佐々木昭夫訳『ヨーロッパの帝国主義』

ほとんど車内ではグロッキー状態のため、久しぶりの更新となった電車読書の備忘。書店でたまたま見かけ、川北稔氏解説ということと、副題に「生態学的視点から歴史を見る」とあったことから、衝動買いしてしまったものhttp://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480097897/。原題は『生態学帝国主義 西暦900年~1900年のヨーロッパの生物学的拡張』で、1986年刊行・邦訳は1998年で、著者が1972年に刊行したのが『コロンブスの交換ー旧大陸と新大陸とのあいだの植物・動物・病気の交換』とのこと(邦訳はないらしい)。どうも72年の著書で1492年以降に起きた、米大陸原産の農産物の世界的普及と、免疫のない伝染病による米大陸先住民社会の壊滅について描かれ、本書では米大陸とともに西欧人の定住が成功したオーストラリア・ニュージーランドを含めて「ネオ・ヨーロッパ」と名付け、ノルマン人によるグリーンランド入植の失敗から、19世紀ニュージーランドで起こった事態まで広げたものらしい。そこで強調されているのは旧世界で起こった新石器革命の重要性と、オーストラリア・ニュージーランドアボリジニマオリによって引き起こされた可能性が高いとされる大型動物の死滅で、その結果著者が「マリネイロ」と呼ぶ西欧人が持ち込んだ病原菌・雑草・家畜によって、先住民社会に壊滅的打撃を与えただけでなく、生態系そのものが西欧風に作り替えられてしまったことが指摘される。新大陸の熱帯地域・アフリカなど「マリネイロ」が定住できなかった地域との差が示されており、細かく見ればいろいろあるのだろうがグローバル環境史としては非常に説得的で、具体的に分析されているニュージーランドの状況も初めて知ることばかりであった。ただ文章のみで図表がない点は講義に用いるには難点。講義はようやく終わりが見えてきたが、締切原稿・公募書類とまだまだやることだらけ。もともと頭の切り替えがなかなかできない上に、気力体力とも低下しており途方に暮れるところ。