wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

「鳥羽殿」

仁木宏・山田邦和編『歴史家の案内する京都』(文理閣、2016年5月20日奥付)、62~69頁所収。手元に残るファイルは2008年6月5日となっており、これまた提出から刊行までかなりの時間を費やしたが、書名に明らかなように研究ではなく市民向けの現地案内。「太秦・嵯峨野の古墳群」から「近代における豊臣秀吉の顕彰地」まで全27編からなり、A5版全244頁、1800円+税。企画当初は画期的なものに見えたが、類書が相次いでいる。少し割高だが、版が大きい分地図は詳細で、町歩きには十分(原稿とは別に、優秀な編集者が最新の情報に基づいて作成されています)。当方分は、東寺・羅城門跡から徒歩で向かうところと、浄禅寺・恋塚寺という文覚出家譚に関わる寺院を紹介しているところが、鳥羽紹介としては独自色を出したところ。前者は平安京からの陸上交通の重要性を強調したもの、後者は鳥羽の人妻が渡辺橋供養に訪れて、渡辺党遠藤盛遠に横恋慕され、夫の身代わりとなって殺害されるという説話で、河川交通の起点として取り上げたもの。とりわけ後者は延慶本平家物語の男が人妻の母に仕えたことで息子と認知され、母への孝と夫への忠の板挟みに迷うというプロットから、盛遠が母親を脅迫した、盛遠と人妻は一度は関係を結んだ、など説話ごとに横恋慕から人妻殺害までの展開が変わっていく点が興味深く、恐らく川船のなかでも語られていたものと思われる。博士論文の口頭試問で近世浄瑠璃研究者に交通の要衝と芸能民との関係について問われ、ありきたりの返答しかできなかったが、その後にこの説話の重要性に気づき、そのさわりだけでもと書き込んだもの。なお本の性格から関係者には特にお送りすることはしませんが、悪しからずご了承ください。なお著者割がありますので、もしご入り用でしたら直接ご連絡ください。