wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

森本幸裕編『景観の生態史観』

GWは月曜日の非常勤先が他の曜日に振り替えという方針を採っていることもあって、カレンダー通りの休日となり、割と通っていた研究会の催しも財政事情を越えるほどの魅力は感じられなかったため、ひたすら引きこもり。ただし春休みよりも研究意欲は湧いていて、史料紹介・解説原稿の初校を終わらせたところ。これから専門科目の授業準備、投稿原稿の仕上げなどをしなければならないのだが、昨年秋に購入して本日ようやく読了した本書の備忘を残しておくhttp://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/keikan.html。全体が六章構成で4~6頁ほどの48編の論考と1頁のコラム11編からなり、当初の電車読書用から自宅での食後休憩用にしたため、読了までに時間がかかった。第1章日本の自然はモザイク模様は、総論として編者が主張する攪乱と再生という景観生態学の見方が紹介。第2章ほどほどに「乱される」ことでつながる命は、基盤条件としての攪乱が生息環境の多様性をうみ生物多様性の基盤となっていることが示される。第3章「災い」を「恵み」に変える賢い適応は、生業を通じた人間の関与が結果として美しい里地里山生物多様性を育んでいたことが示される。第4章都市化の影響と最適化のバランスは、生物多様性に及ぼされた影響が叙述。第5章「生き物目線」にもとづく自然再生は、各地における都市公園の取り組みの可能性と限界が叙述。第6章震災復興は震災の景観生態学的見方と復興の方向性が示される。一つ一つの文章は簡潔で、見開きA4版で縮小されているが多数のカラー図版が盛り込まれており、わかりやすい。多数の湿地環境が失われた中で蓮田がその代替として機能している、絶滅危惧種のコケが日本庭園で生息しているなど、いろいろ知ることもあった。全体として自然災害と人間活動による「攪乱」が生物多様性を維持してきたことが示され、歴史を考える上でも大変有益。基準はなかなか難しいのだが、「読書」と「読書(日本中世)」を分けてみた。おおまかにいうと後者の著者は同業者として接点がある方々で、当方が史料にあたって検証可能なものになる(なお以前にも書いたが、贈答は個人情報だと考えているのでここには記さない)。