wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

上田信『戦国日本を見た中国人』

本日は久しぶりのお座敷、90分喋り続けるのも一月以上ぶりで、のども結構疲れた。聞いているほうはもっと疲れたかもしれないが(明日にはアンケートが送られてくるはず)・・・。そういうわけで読みさしになっていた表題書を片付ける。副題に「海の物語『日本一鑑』を読む」とあるように、中国人鄭舜功による戦国日本の観察記録で、当方も渦潮がらみ見つけ、刀剣記述も気になっていたことから、予告が出たときから楽しみにしていたもの。王直と同郷で平民としての自覚を持っていたという鄭自身の人となりと行動の背景については、勉強になったのだが、日本関係の記述については・・・。著者が指摘するように『日本一鑑』全体を位置づけた研究がないのは確かなのだが、個別研究はこの間に急速に進展しており、海域世界の全体像についても村井章介の枠組みが出てから、もっともホットな領域。あとがきによると当該分野の日本史研究者二名のおかげとあるのだが、もう少しコミットしてほしかったし、武家密懐法への無理解(96頁)・関ヶ原の戦いの東軍・西軍の硝石・鉛のサプライチェーンはなどといわれると(214頁)何だかなあと思わざるを得ない。刀剣については、武家故実書でも同じようなもので鄭の認識が誤っているとは思えないが、前からわからないのが明に輸出された大量の刀剣はどうなったのかということ。少しぐらい伝世品があってもよさそうなのだが、寡聞にして知らない。なお帯の文句「凶暴なるも、秩序あり」のように、だから折り合いがつけられるというのも安易にみえる。結局、秀吉に求めた「冊封なき勘合」が明に受け入れられる余地はもともとなかったのではないか。

『戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む』(上田 信):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部