wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

東島誠『「幕府」とは何か』

本日は千里山2コマ。設置PCの時計が合っていなくて時間配分が狂うが何とか終える。4月から電車通勤が3日になったので、ようやく読みかけの表題書を読了。一昨年に予告が出てそのあと音沙汰なしでどうしたものかと思っていたが書店で見かけ、怖いものみたさで購入してみたもの。前半は鎌倉幕府成立論で、謀叛人跡の地頭設置を正当化する文治二年六月頼朝奏状を誕生の瞬間とする。それと都市王権論(都市民を飢えさせないのが正当性の根拠)との関係がもう一つ理解できないところもあるが、何れにせよ当方は権門体制論だが1180年説なのでそうなのねという理解。「黄瀬川宿という歓楽街」(70頁)が気になるが読者サービスなのだろう。ただその後の論理展開はよくわからない。「幕府」は京都から見て東国に位置しているもので、「室町幕府」は存在しないというのもその限りでは理解できるが、それなら第三章で足利将軍家の時代をたててあれやこれやを論じるのは別の話だろう。都市王権論ということかもしれないが、著者の『自由にしてケシカランひとびとの世紀』(講談社)で展開されている材料の焼き直しが続く。著者が中世国家の例えとして用いる増改築される温泉旅館(ちなみにほとんど「本館」が機能していないものの例えとしては不適切)そのもので、信用できない考古データからのV字回復テーゼなど前にみたとしかいいようがない。それにしてもこれを誰に語っているのか、以前の著書にあった「江湖」が後景に退きより虚無的になっているように見える。馬鹿な日本人中世史研究者を相手にするより、英語で最良の中世史研究を語っていただいた方が、学界的にも有益で著者の自尊心も満たせると思うのだが・・・。なお後鳥羽が神泉苑に毎日のように足繁く通ったというのは不勉強で全く知らなかった。史料の乏しい時期にそのようなことがわかるものがあったというのは非常な驚き。

No.1277 「幕府」とは何か 武家政権の正当性 | NHK出版