wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

早島大祐『徳政令 なぜ借金を返さなければならないのか』

本日は休日出勤で姫路。キワモノ報告にブレーキをかけてもらえず益々ドツボにはまっていく状況…。それとは別の報告が来週に迫っているが、売券についていろいろ気になることもあり、積ん読の順序を入れ替えて表題書を読了http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000313011。昨年刊行された『岩波講座日本経済の歴史』の著者執筆分を基軸にして、中世後期の徳政令をめぐる諸相を通史的に叙述したもの。いつもながらの筆が滑った例えも目についたが、ほぼ無視状態の当方の論考をわざわざ引用していただいていることもあって、あげつらうことは避けておく。ただ室町期の公武統一政権の成立→朝廷儀礼のための負担増→地域金融を担っていた在地領主の経営危機の一方で土倉金融の活況→徳政一揆の蜂起→土倉の経営不振と地域金融の復活→牢人など一揆構成員の変化→分一徳政令に代表される幕府の政策への組み込み→応仁の乱を契機とする戦争と一体化した徳政令への変質→徳政忌避と分断社会→共同体に対峙する統一政権による法体系の一元化という全体の構図そのものの妥当性は問われなければならない。とりわけ当方がそれなりに史料をみている室町期については、著者のこれまでの論文をみてもなぜそんなことがいえるのかは理解できなかった。それに対峙するだけの見解を示すことはできない犬の遠吠えに過ぎないのだが、やはり中世社会における金融とは何かはもう少し考える必要があると思われる…。