wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

山本健『ヨーロッパ冷戦史』

本日は千里山遠隔。ただ専任サバティカルで三年生ゼミを半期だけ預かっているため近年の講座ものの目次を提示する必要があり(この10年いかに不勉強かということ)、午前中に大学図書館へ。事務に申請したので交通費は出るようだが、来週までにまた行く必要がある。そんなわけで読みさしの表題書をようやく読了。これまた秋のために衝動買いしていたもので、米ソの冷戦(ドイツ統一まで)を、「陣営」(ブロック)と「緊張緩和」(デタント)の交錯として読み解いたもの。前者は西側では大英帝国復活を指向するイギリス・独自外交とドイツ封じ込めを指向するフランス・一つのドイツ政策から東方外交へと向かう西ドイツそれぞれの思惑(イタリアはほぼ出てこなかった)、東側でもスターリン批判をうけたポーランドハンガリー、経済ナショナリズムで独自路線をとったルーマニアなど、独自指向の一方で結束のベクトルが働いていたこと、後者では「二つのドイツ」を認めるなど現状維持、軍縮・軍備管理、経済・文化交流、多国間といった方向性がある一方で、陣営の自律と緊張緩和はトレードオフの関係にあったという。また80年代は米ソ対立が再燃するもと、経済・交流デタントが継続し、アジアNIESに比して工業力の劣った東欧諸国が西欧とくに西ドイツへの債務超過を膨らませたことが、89年の急激な変化の背景にあったという。「トルーマン・ドクトリンは、ソ連スターリンにさほど重視されていなかった」をはじめ新知見が多数盛り込まれており勉強になった。ただ「フィデル・カストロ率いる社会主義政権が発足すると、ソ連フルシチョフがそれを大いに歓迎し、さらにキューバを守るため、核弾頭が掲載可能なミサイルをキューバに極秘裏に配備する」という叙述は直接関係ないとはいえ雑すぎるのではないか。

筑摩書房 ヨーロッパ冷戦史 / 山本 健 著