wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

『日本の対外関係』

本日出講の大学は休日はそのままとして他曜日(今度は水曜日)に振り替えるという方針を採っているため、形式上は自宅引きこもり、実質は水曜日の講義準備という自転車操業。結局4月からかなりの時間を準備のために費やすことになった(まだ来週月曜分が残っているが)。そういうわけでほぼ通読したのが表題のシリーズ全7巻(中近世移行期を対象とする5巻は未刊)。以前に購入して読了していた4巻についてはそういう印象はなかったが、全体を通してみると企画としては失敗といわざるを得ない。全巻とも編者による通史と「歴史的展開」・「対外関係の諸相」とした各論からなるが、それぞれの紙数が短すぎることもあり(400字詰めで30枚もないだろう)、中途半端な論考が多すぎる。しかも棲み分けがちゃんと出来ておらず、専門家ぶったひねりが強すぎて、当方のような「素人」(歴史教育従事者)相手に説明しようという姿勢がほとんど欠落している。今回の第7巻でいうと、幕末の対外条約について論じたものに総論・「『不平等条約体制』と日本」・「鎖国と開国」があるにもかかわらず、加藤祐三・井上勝生などの先行研究はほぼ全否定され、代案が示されないまま個別論点がほじくり返される。「泰平の眠りを覚ます蒸気船・・」狂歌の信憑性のみを取り上げた論考が掲載されているにもかかわらず、その主要参考文献としてあげられた著者が隣接テーマを執筆している。お雇い外国人についての全体像に触れた書物の名前を紹介しただけで、個別事例の検討に突入するなど、中途半端な個別論文(コラム)の寄せ集めというほかない構成になっている。これは執筆者の責任というより、完全に編者の責任で、執筆者を半分に絞り、現時点での研究水準の全体像を示したものにしてほしかった。