wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

今尾文昭・高木博志『世界遺産と天皇陵古墳を問う』

本日は姫路で会議。朝起きて呆然とすることがあり遅刻しかけたが何とか間に合う。帰りはしんどいのに眠れなかったこともあって表題書をようやく読了。教養講義で「古墳と天皇陵」という回を設けている関係で、その最新知識を得るため衝動買いしたものhttps://www.shibunkaku.co.jp/publishing/detail/9784784218721/。考古学史・歴史的な呼称の扱い、古市・百舌古墳群の考古学・文献史からの評価と、天皇陵決定をめぐる近現代史、陵墓公開をめぐるネット・教科書・マスコミの現状と公開運動の展開について、計10本の論考でまとめられており有益。とりわけ世界文化遺産登録の動きをめぐっって、むしろ確かな根拠がない「天皇陵」呼称の復活や、考古学者の間の分裂があることが示唆されているなどは、初めて聞く話。なお古墳そのものを正面から取り上げた考古学者の論考はK氏の祭祀・軍事2王説のみ。面識もあるため、箸墓型の比較論と二王論については講義でも紹介しているのだが、説得力のある図面が示されている前者と異なり、後者はどこまで信じてよいものだろうか。編者の考古学者は有効性を認めているようなのだが、学界全体の中での位置づけがもう一つよくわからない。とりあえず講義では通説ではないがこういう見方すらされているという言い方にはとどめているのだが…。