wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

山田篤美『真珠の世界史』

昨日は講義終了後に一度帰宅して家の雑用を済ませてから、12月に開催される某シンポジウム分科会の準備会に。ほとんど史料がないテーマだが、一点だけを手がかりに強引にふくらませて何とか形にして、とりあえず関係者の了解をもらう。そこから飲み会があり書けなかった電車読書の備忘を記しておく。前著がわりと面白かったため購入した講義科目「人類の歴史」に関わるものhttp://www.chuko.co.jp/shinsho/2013/08/102229.html。第一章で天然真珠の基礎知識が示され、続く第二章では古代日本が紹介される。はじめにで邪馬台国の位置論争が示唆され、大失敗かと思ったが全国の埋文関係者に問い合わせた出土事例が紹介されるだけで、トンデモ本にはなっていなかった。近年の海域史研究の成果は踏まえられていなかったが、日本人が宝石文化に無頓着だったこと、古代・中世の真珠生産については改めて考える必要がある。続く第三章ではインド・イスラムでの真珠の位置、第四章では16世紀のスペインによるアメリカでの強引な真珠確保、第五章では19世紀イギリス支配地での真珠行政、第六章では20世紀初めのアメリカ新興成金による真珠バブルとフランスを拠点にしたユダヤ系真珠ディーラーの活動と、国際商業の展開のなかで真珠の占める重要性が紹介されており、先住民を長時間潜水させて真珠貝を採集させた話は本日の講義でも触れた。第七章では日本で真珠養殖に携わった人々の競合関係、第八章では反発を受けながら欧米で日本産養殖真珠が受け入れられる過程が記され、第九章では戦後日本で外貨獲得に真珠産業が大きく貢献し(98%が輸出)、24県で養殖筏が浮かぶようになったという。さらに第十章では日本の真珠産業が技術非公開で海外にも進出し利益を上げていくものの、珊瑚礁タヒチでの養殖真珠や中国での淡水真珠の大増産により日本の地位が低下し、第十一章ではその国内要因として海に負荷をかけ続けたことで真珠貝の大量死が起こるようになったことに触れられ日本の真珠養殖の現状が示されている。エリザベス女王からはじまりシャネルとマッチした真珠がミニスカートの流行で売れなくなるなど、ファッション・モードと真珠の関係、海の利用や神戸の盛衰など真珠産業が日本社会に与えたさまざなな影響など、いろいろ興味深く勉強になった。