wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

『環境の日本史3中世の環境と開発・生業』

発売前には購入予定だったのだが、いざ書店でめくってみると、取り上げられているフィールドが東国中心だったこともあり、価格に見合うか逡巡してしまい、結局は非常勤先の図書館で借りてきたものhttp://www.yoshikawa-k.co.jp/news/n5148.html。12本の論考の多くはこの分野における研究水準の到達を示したもので、十分に納得できるもの。その一方で5代連続東京都知事賞がもらえそうな一貫した愚民観を展開したものや(外遊中も低俗なツィートを繰り返していたようで、そのノリでインタビューに答えたのだろう)、意味不明の連想ゲームに終始したものもあった。また程度の差はあれ幾人かの論者が戦後歴史学=生産力発展史観と決めつけているのも、あまりにも単純化した議論だろう。さらに驚いたのは「バリア海退」という魔法の言葉で全てを説明するトンドモ論文で締めくくられていたこと。今の研究水準では地震・戦争・飢饉など一回毎のイベントがもたらした影響を明らかにするか、「危機管理」として一般論を展開するのが精一杯で、数百年にわたる複雑な気候変動が社会にもたらした影響を論理的に説明かにできるとは思えない。しかも「バリア海退」より日本列島に即したデータとなる水月湖のものすら参照されておらず、専門家にはすぐに馬脚を現すレベル。研究者個人が何を書こうが自由なのだろうが、こういう学際的なテーマで低レベルの議論を発信するのは、中世史研究そのものの水準を疑わせることになり害悪以外の何物でもない。